スナック
会社員になってからというもの、晩酌がやめられない私ですが、
今回はお酒のお供に関する特許です。
江崎グリコより販売されている「チーザ」。
チーズの風味とカリカリとした触感で大変美味しく、私もよく晩酌のお供にさせてもらっているスナックです。
さて、パッケージには「グリコ独自のハイチーズ製法」とあり、その下には特許第4854631号の文字。どうやら、チーザのおいしさの裏には特許技術があるようです。
早速調べてみると、
出願人 江崎グリコ株式会社
出願番号 特願 2007-245840
出願日 平19.9.21
登録日 平23.11.4
発明の名称 焼き菓子
となっています。
従来技術では、実現できなかった、チーズの風味を強くしながら、カリカリ感を引き出すことを特徴とする製法のようです。具体的な手段として、
1. 澱粉とチーズの重量割合を最適化し、さらにトレハロースを加えたこと
2. お菓子の形状が、焼き上げた後の面積に対して、3~50%に相当する穴を有し、さらに厚さが6mm以下であること
によって、カリカリとおいしいチーズ風味のお菓子を生み出したようです。
確かに「チーザ」の形を見ると、正三角形の中に穴が幾つか空いているのが分かります。審査経過における意見書を読むと、この穴には、チーズを多量に含んでいるが故に焦げやすくなっている生地に対し、穴によって生地全体が加熱されすぎてしまうことを防ぎ、しかも水分を蒸発させやすくしている、という意図がある点が記載されています。
食べているときは、「単にチーズっぽいデザインにしているのかな…」くらいにしか考えていませんでしたが、実はきちんとした意味がある穴だったようです。
一方、特許請求の範囲としては、焼き菓子の形状が三角形であること記載されてませんので、四角形でも六角形でもいいはずですが(歩留りを考えると四角が最良?)あえて三角形にしていることから、やはり、よくあるチーズの形をイメージさせるようにとの考えにも取れます。
穴を設けた技術的特徴と、チーズっぽいデザインがたまたま一致して生まれた独特のスナック形状といったところでしょうか。
また、澱粉を主原料の1つとする点も特徴であり、これによって例えば、小麦粉とチーズの組み合わせの焼き菓子と異なり、チーズの風味を阻害することがないことも記載されています。(同意見書)
「チーザ」の特長である、お酒によく合う強いチーズの風味。これを支えていたのは、実は特許技術であったということです。
今日の晩酌のお供に、特許のスナックはいかがでしょうか。
ヨーグルト②
前回に続いて、ヨーグルトです。
なお先に申し上げておきますが、明治のステマではありません。
このLG21ヨーグルトは、前回のR-1ヨーグルト同様、乳酸菌の種類をその名に冠したヨーグルトです。
R-1ヨーグルトは、NK(ナチュラルキラー)細胞の活性化を目的としていました。
一方、今回のLG21は、Helicobacter Pylori (通称、ピロリ菌)を除去する作用を持っているらしいです。
ピロリ菌は、特に胃潰瘍や胃がんの発生する確率を高めることが知られています。
ピロリ菌の除去には、薬剤を用いる方法もありますが、乳酸菌による方法の方が、
・ 副作用がない
・ 薬剤に対して耐性のある菌の出現がない
などの利点があります。
LG21に関する発明以前にも乳酸菌を利用したピロリ菌対策はありましたが、今回の乳酸菌の選定に際して、明治の研究者たちは以下の点に着目したそうです。
それは、
・ 胃内部(低pH、強酸性)での残存性
・ 乳酸菌を利用した食品の形態、香味など
です。
これらは今までの研究では、考慮されて来ませんでした。
以上を踏まえて、数多くの乳酸菌から見出されたのが、
Lactobacillus gasseri QLL 2716株
という乳酸菌だそうです。
この乳酸菌を含んだLG21ヨーグルトは、食べるだけで胃がん、胃潰瘍を防げるヨーグルトと言えるかもしれません。しかも、舌触りよく、おいしい。
ストレスで胃潰瘍になりそうな私にはうってつけです。
ところで、このLG21ヨーグルトは、以下の特許を取っています。(ラベルに記載あり)
特許番号: 特許3046303号
出願日: 1999年6月24日
登録日: 2000年3月17日
わかもと製薬株式会社
wikipediaによれば、2000年ごろからの販売開始となっています。前回、紹介したR-1ヨーグルトには先輩商品に当たるわけです。出願と同時に審査請求となっていることから、当然、翌年の販売開始を見越しての特許出願と思われます。
また、特許権者には、明治だけでなく、わかもと製薬も入っています。更に、発明者には、東海大学の研究者の名前もあることから、産学連携の共同研究成果のようです。この点はR-1と違いがあります。
LG21の産学連携で得た技術、ノウハウを元に、R-1ヨーグルトの研究、開発に繋がった、とも考えられますが、明治の発明者の名前が違うため、別の開発グループと考えられ、少し無理のある推測と言えます。
まぁ、LG21のヒットが、R-1の呼び水となった、くらいはありえるかもしれません。
以上、二回連続で明治のヨーグルトを取り上げましたが、いずれも明治の特許戦略とともに、ヒット商品が生まれたと言えます。
今後、明治の新規出願動向を調べれば、次にヒットするヨーグルトが見えてくるかもしれません。
ヨーグルト その①
先日、知り合いのお父様が、明治乳業で勤務している方だという話題になり、しかも「R-1」というヨーグルトの開発に携わった、ということを知りました。この「R-1」は発売から爆発的なヒットを記録し、明治乳業の従業員の家族は購入をしないように(市場流通分をできるだけお客様に届けるため?)とのお触れまで出たとか…。
真偽のほどは定かではありませんが、この「R-1」は大変目立つ真っ赤なラベルで、コンビニやスーパなどでよく見かけます。また、通常のヨーグルトだけでなく、小さなPET容器に入った飲むタイプもあり、商品展開も進んでいることから、人気商品であるのは本当のようです。
とはいえ、私はその知り合いからこのR-1ヨーグルトについて伺うまで、まったく手に取ったことはなく、食べたこともありませんでした。ヨーグルト自体、体調が悪い(二日酔い)で胃が何も受け付けないとき、最後の手段として口にするくらいで、日常的に食べることもありませんでした。(好きなヨーグルトはアロエヨーグルトか、朝食リンゴヨーグルトです。)
ヒット商品の影に特許あり、というのは良くあることで、このR-1も特許を取っているようです。食べたことはなくても、仕事柄、特許からアプローチしてみようということで、少し調べてみました。
ラベルを読むと、このヨーグルトに含まれる乳酸菌の説明と共に、「特許5177728号」の文字。早速検索してみると、
【出願番号】特願2004-203601
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【特許番号】特許第5177728号
【登録日】平成25年1月18日(2013.1.18)
【発明の名称】NK細胞活性化剤
【特許権者】
【氏名又は名称】株式会社明治
となっています。
出願がなされたのが、約10年前。特許になったのが去年の1月です。権利化まで結構時間がかかっている特許のようです。
拒絶査定不服審判まで行っているのも原因の一つかもしれません。
R-1自体の発売開始はwikipediaによれば、2009年12月です。その2009年に早期審査請求を行っており、これは販売を理由にしたものと推測されます。
10年以上前から研究してきた内容をアイディアとしてまず出願→量産化のめどが立ったので、審査請求、権利化を図ったというところでしょうか。
また、子、孫世代の分割出願もされていますので、権利網の構築を図っていることも推察されます。
さて本題の特許の中身ですが、要は食べるだけで免疫力が付くヨーグルト、という画期的なものです。
ナチュラルキラー細胞(NK細胞)という、インフルエンザウイルスやガン細胞を殺す働きを持った細胞に着目し、この働きを活性化させることを目的にしています。
活性化には、様々な食材由来の多糖類が研究されてきましたが、その効果は十分ではありませんでした。また薬剤もありましたが、副作用などの問題がありました。
そんな中、明治の研究者の方たちが目を付けたのが、とある乳酸菌です。その名も
「Lactobacillus bulgaricus OLL1073R-1株」
です。商品名のR-1はここからとっているようです。
このL. bulgaricus OLL1073R-1乳酸菌によって生み出された多糖類(特にリン酸化多糖類)はNK細胞を活性化し、その力を飛躍的に高めることができます。
実際に特許では実施例として、与えるものを変えた3タイプのマウス(蒸留水、普通のヨーグルト、R-1ヨーグルト)の脾臓を調べ、死滅したYAC-1細胞の数からL. bulgaricus OLL1073R-1乳酸菌の効果を確認しています。
L. bulgaricus OLL1073R-1だけがどうしてそんな力を持っているのか。個人的にかなり気になりますが、残念ながら特許は学術文献ではないため、そこまでは書いてありません。
食べるだけで、インフルエンザやガンになりにくくなるヨーグルトと、それを支える不思議な力を持つ乳酸菌。
もやしもんを読み返しながら、食べてみようと思います。
以上